本研究では、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いた新しいリソグラフィー技術:SPM局所反応場制御リソグラフィーの開発を目指している。本手法では、原子間力顕微鏡(AFM)などのSPM探針にバイアス電圧を加え、探針周囲の雰囲気環境を制御することで探針直下に局所的な化学反応場を誘起し、母材料を化学的に反応修飾させ、その後、得られた反応物質の選択的なエッチングによりナノメートル級リソグラフィーを実現する。 平成12年度では、特に、SPMを用いた微細ナノ構造作製手法の洗練化を行った。即ち、様々な化学反応場を用いて、実用化に有望と思われる各種基板物質(母材料)に対してナノ構造形成を行い、化学反応場条件に対する微細ナノ構造パラメータの関係を明確にすることを目的とした。具体的には、局所化学反応場として酸化反応場を、また、母材料として磁性体薄膜であるNiFeやCrを選択し、これまでに報告例の無い磁性材料に対するSPM局所反応場制御リソグラフィー技術の開発を重点的に行った。これより、以下の新たな知見が確認された。 (1)酸化反応場を用いたSPM局所反応場制御リソグラフィー技術により磁性体酸化物(NiFe酸化物やCr酸化物)の形成が可能。 (2)SPM探針への印加により酸化反応場を誘起するバイアス電圧により、磁性体酸化物の形状寸法制御が可能。具体的には、6〜9Vのバイアス電圧を印加することで高さ5〜15nm、幅50〜100nmのNiFe酸化物ドットの作製に成功し、また、2〜4Vのバイアス電圧印加により高さ〜1nm、幅20〜100nmのCr酸化物細線の形成に成功した。 (3)バイアス電圧を印加した状態でのSPM探針の走査速度により、磁性体酸化物の形状寸法制御が可能。具体的には、走査速度を50〜200nmとすることで高さ〜1nm、幅100〜70nmのCr酸化物細線の形成に成功した。 今後は、これらの研究成果をもとに、磁性と単電子トランジスタを融合させた強磁性単電子トランジスタシステムの実現に向けて研究を進展させる。
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