本研究は液相中でのダイヤモンドライクカーボン(DLC)の成膜法の確立と、堆積した膜の電子物性の解明を目的とする。今年度は、反応溶液および下地基板の違いがDLC薄膜の堆積に及ぼす影響を明らかにすることを課題とした。まず、メタノール、エタノール、プロパノールおよびアセトン中で電極間に直流電界(0〜4kV/cm)を印加し、負電極に設置したシリコン(Si)基板上へ膜が析出するかを調べた。その結果、いずれの反応溶液においても非晶質炭素膜が生成されることが明らかになった。特に、プロパノールおよびアセトンでは、メタノールに比べて電圧印加時にわずかな電流しか流れなかったにも関わらず、微量ではあるが炭素膜が析出することがわかった。これらの溶液中で堆積した膜をラマン分光や赤外線分光により評価した結果、メタノール中で堆積した膜のみから従来報告されているDLCと同様なスペクトルが観測され、目的とするDLC薄膜の堆積に最も適した溶液はメタノールであることが明らかになった。次に、シリコン(Si)以外の下地基板上への薄膜の堆積を試みた。実験に用いた金属はアルミニウム(Al)モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、プラチナ(Pt)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)およびチタン(Ti)で、いずれも厚さ0.5mmの金属プレートを用いた。メタノール溶液中でこれらの基板上に成膜を試みた結果、Al、Ni、PtおよびTi上にはSi基板と同様なDLC薄膜が堆積するのに対して、Mo、CoおよびCu上には膜の堆積は見られなかった。このようにDLCの析出が下地基板に依存することから、電界印加時における溶液/基板界面での反応がDLC膜の析出過程において重要であることが推察できる。以上の実験結果から、DLC膜の液相合成に適した反応溶液と下地基板の条件が明らかになった。次年度はDLC膜への窒素やホウ素等の不純物ドーピングを試み、得られた膜の電気伝導度や電子放出特性について評価する。
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