コインシデンス・ディテクタをニューロンとして用いたニューラルネットワークによって、単一伝送路に対して複数のスパイク列を重畳し伝送するようなスパイク通信システムを提案し、そのシミュレーションによる特性解析を行った。伝送路を介して送る情報源のスパイク列は、そのスパイク間隔列に情報が含まれていると仮定した。本研究では、情報源のスパイク列における単一のスパイクそれぞれに、識別を可能とするような幾つかのスパイクを加えてコードとする方法を用いた。受容側のデコーダにおいて、識別キーとして用いたスパイクに応答するようなネットワークを構成し、それぞれの情報源のみのスパイク列を復号するシステムを提案した。提案システムの特性を解析するために、複合通信の状態における単一のエンコーダ・デコーダ対での伝送誤り率に関してシミュレーションを行った。結果として、コインシデンス・ディテクタの一致検出時間精度程度の絶対不応期を有するニューロンを用いた方が、有さない場合よりも性能が高いことがわかった。 また、伝送過程におけるスパイク列の変調を議論するために、2本のスパイク列の相互関係を決定論的判別を用いて解析する手法を提案した。伝送過程のすべてを一つの決定論的な力学系であると仮定すると、2本のスパイク列がその伝送過程を経たものである場合、列間の依存関係には決定論性が生じる。そこで、決定論性を抽出する手法であるサロゲートデータ法を拡張し、2本のスパイク列間の決定論的依存関係を抽出する方法を開発した。力学モデルを用いてシミュレーションした結果、独立システムからの観測であるか、あるいは同一システムからの観測であるかを本手法を用いて判別することが可能であることを示した。
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