研究概要 |
物の操作を獲得するためには,学習や慣れが必要である.これまでは,試行錯誤により操作を覚える,あるいは繰り返し反復練習により熟練度を上げる方法だけで,システマテイックに教育する方法は提案されていない.さらに,高齢化社会を迎え,高齢者がたとえば,車の運転を行なうときに,それまでに獲得した操作にたいする感覚と,筋肉骨格系の衰えによる運動系の誤差が生じると危険な場面に遭遇したり,最悪の場合事故を起こすことになってしまう.安全性という観点からも,物の操作の獲得過程を明らかにすることは重要である. 本研究では,「視線の移動が操作の習熟度と関連しているのではないか」という点に着目し,操作に必要な情報をどのように取得するかという,学習と視線の移動の関係を明らかにし,時空間パターンの中からどこの情報をどのような割合で操作に用いているのかを計算機上でのモデル化と行動実験を通して明らかにすることを目的としている. 本研究では,複数の制御入力を用いて,最適な制御ができる位置を求めるモデルを強化学習を用いて作成した,強化学習を用いたため,どの位置を見るかは指示せず,最終的な運転結果ができるだけ将来にわたり良くなるような報酬を与えるだけで,学習を行うことができた.また,過去に示されている視野制限での運転方法と,学習によって獲得されたモデルでは,ほぼ同じ方策をとっていることもシミュレーションにより示して,本モデルの有効性を示した. また,行動実験において,視線計測を簡易なドライビングシミュレータを作成して行った.その結果,これまでに提案されているモデルが,幾何学的な情報に基づいて視線が決まっているものであったが,速度が速くなるにつれて視線の位置が遠くに変化することを新たに発見した.さらに,同じ速度であっても,習熟度によって視線が変化することも発見した.具体的には,習熟度が上がるにつれて視線が遠くの方にシフトし,その結果運転操作が滑らかになった.
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