3次元声道形状をモデル化するうえで、形状の精密さの必要度を調べる事を目的として、3次元音響管モデルを作成し有限要素法により数値解析を行なった。声道の形状データとして、成人男性の日本語母音/a/発声時のMRIデータを用いた。実験では、オリジナルデータをできる限りそのまま表現した参照用モデルと、次の二つの点について簡単化を施したモデルの比較を行なう事により、形状の精密さの必要度を調べた。まず、声道断面形状の非対称性と簡単化に適した形状を調べるために、声道断面をだ円および矩形で近似して作成される簡単化された音響管モデルを用いて数値解析を行ない、解析結果より得られた声道伝達特性をもとに比較を行なった。次に、声道の曲がりに対する影響を調べるために、上記全てのモデルから曲がりを無くして同様の比較を行なった。 声道断面の簡単化に関する実験結果より、5kHz程度までは、断面をだ円で近似したモデルに対する声道伝達特性が参照用モデルのものとよく一致することが示された。従って、5kHz程度までは声道形状の非対称性は無視してもよく、だ円近似で十分であることが伺える。一方、矩形で近似したモデルに対するホルマント周波数は参照用モデルのものよりも低くなる傾向があり、声道断面の簡単化にはだ円近似が適していると考えられる。声道の曲がりの有無に関する実験結果より、曲がりが無くなるとホルマント周波数は参照用モデルのものよりも、5kHz以下の低域でも、すべて低くなる傾向にあることが示された。従って、曲がりの影響は無視できず、曲がりの無いモデルを扱う場合には何らかの補正が必要である事が伺える。5kHz以上の高域では、参照用モデルの声道伝達特性に簡単化されたモデルのものには見られないピークや零点が出現し、声道形状の非対称性が無視できない事が示された。
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