研究概要 |
1.予測符号化における情報量の定式化 可逆符号化の国際標準方式であるJPEG-LS等に広く用いられている予測符号化技術の高性能化を図るため,予測誤差の情報量という新しい概念の定式化を試みた.その結果,予測誤差信号の分布がガウス関数で近似できる場合,予測誤差の情報量は2乗誤差に比例することが分かった.これは,予測器の最適化手法としてしばしば用いられる最小2乗法が,上記のような定常信号に対して有効であることを意味している.しかし,通常の画像では予測誤差の分散がエッジ等の影響により大きく変動することが知られており,これらの非定常信号を効率良く符号化するためには適応的なエントロピー符号化の導入が必須となる.このような前提条件の下で更に考察を加えた結果,予測誤差の情報量は予測誤差の分散の逆数で重み付けられた2乗誤差によって定式化できることが判明した. 2.レートを最小とする予測器の設計法の開発 予測誤差の符号化レートを最小化し得る予測器の設計手法について検討した.また,画像のテクスチャやエッジ成分の変動に対処するため,ブロック単位のクラス分類に基づいた適応予測手法の導入を図った.このときブロック毎のクラス判定とクラス毎の予測器の設計を,予測誤差の情報量をコスト関数として繰り返し実行することで,画像毎に最適なクラス分類と予測器の組を同時に決定することが可能となる.計算機シミュレーションの結果,提案手法により設計された予測器は,2乗誤差をコスト関数として同一手順により設計された予測器に対し,符号化効率の点で常に優れた性能を示すことがわかった.このことは,従来の最適化手法で一般に用いられる2乗誤差規範が可逆符号化の場合には最良ではないことを意味しており,今後高能率な可逆符号化を開発してゆく上で重要な知見が得られたといえる.
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