透過型へッドマウンテッドディスプレイ(透過型HMD)を使うことで、人工的に作り出された仮想画像を現実環境に重ね合わせて、使用者に呈示することができる。しかし、現在の透過型HMDでは、仮想画像で惹起される奥行き感と現実空間の奥行き感とが異なってしまう。何らかの作業をする際には手からの触覚情報を利用するので、この触覚情報を使うことで奥行き感ずれを減らせないかと考えた。 本年度では、まず、どの程度奥行き感ずれが生じるのかを調べた。測定条件を簡単にするために、透過型HMDの位置(頭、眼の位置)を固定し、指先の位置だけを測定した。仮想画像は直径15mmの白色円とした。被験者の目と同じ高さの前方で、上肢の長さを100%としたときの60%、70%、80%の位置に仮想円を呈示した。右眼用、左眼用の画像データはHMDに送られ立体画像となる。被験者の右手人差し指の位置を磁気センサで測定した。目の前に見えている仮想円をボタンとみなしてもらい、それを押すような動作を被験者にしてもらった。そのボタンの表面に指先が触れたと思ったときに、左手のスイッチを押してもらい、その時の指先位置を計測した。計測された指先位置を、頭の中で考えている仮想円の奥行き位置と見なした。 その結果、理論的な呈示位置とそれを知覚している奥行き位置との間にはずれが生じた。例えば、ある被験者では、80%の位置に仮想円が呈示された場合、ボタンを押そうと指を動かしていくと、(知覚された位置が約3cm奥側にあるので)押そうと思っている位置から3cmも手前でボタンが押された状態になってしまう。この時点でおそらく違和感が生じるものと予想できる。 次年度では、触覚ディスプレイを指先につけ、触覚刺激を呈示することを考えている。そこで、これを利用して触覚刺激によってずれを感じさせなくすることができるかどうかを調べることにする。
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