研究概要 |
近年,制御工学における様々な問題を行列不等式によって記述し数値的に解く試みがなされている.解きたい問題が線形行列不等式(LMI=Linear Matrix Inequality)で記述できれば,内点法などの優れた凸最適化アルゴリズムによって大域的最適解が得られる.しかし,多くの重要な問題が双線形行列不等式(BMI=Bilinear Matrix Inequality)でしか記述できない.この場合,問題は凸にはならず大域的最適解を得ることは難しい.このため,すでに多くの研究者がBMI問題の効率的解法に挑んでいるが,有効な方法はまだ見つかっていない.BMI問題の中でも比較的解きやすいものとそうでないものをクラス分けしたり,あくまでもBMIの枠組みの中でアルゴリズムの工夫により計算効率の向上を図ったりするものが多い中で,本研究の目的は,従来とは異なる視点でBMI問題を効率的に解くための新しい方法論を確立することである. 平成12年度は,「平方完成によるBMI変数の分離と準不定二次項の逐次LMI化」に着目し,研究を進めた.この方法を用いれば,Schurの相補定理が適用できない二次項もLMI化できる.これにより,従来LMIで記述できないと思われていた問題のいくつかが,逐次的にLMIで記述して解けるようになった. 1.多目的制御系設計問題(H_2/H_∞制御,領域極配置,強正実H_2制御)を動的〔静的〕状態〔出力〕フィードバックの4つの場合について解くアルゴリズムを開発し,数値例を用いてその有効性を検証した. 2.消去補題を多目的制御系設計問題に順適用し,問題の構造を調べた.また,逆適用により,拡張空間での制御系設計という新しい可能性を開拓した. このように,本年度の研究の最後に,多目的制御系設計に限らず,様々な設計/解析問題をパラメータ依存Lyapunov関数を適用して解く可能性を得た.これは,例えば,ポリトープ型の不確かさに対するロバスト制御系設計問題や線形パラメータ変動システムに対するゲインスケジューリング制御系設計問題に適用できる.そして,二慣性系やEuler-Bernouli梁の数値例で,H_2コストに関する保守性が実際に大きく改善されることを確認した.
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