研究概要 |
戦後50年間,社会基盤施設に対してコンクリートを用いた構造物が建設されてきた.これらの構造物は建設当時,メンテナンスフリーで相当長期に亘って利用できることを前提として設計されてきたが、最近頻発している山陽新幹線のトンネルおよび高架橋のコンクリート落下事故に代表されるように,必ずしもその機能を果たしていないのが現実である.これらの原因としては,工事の不良によって生じる「コールドジョイント」と呼ばれる接合不良部の存在が考えられているが,それに加えて,塩害に代表されるようなコンクリートの早期劣化や,さらには中性化および凍結融解作用などが複合的に生じてコンクリートが変質し,今回のようなコンクリート落下事故に至ったと考えられる.そこで本研究では,材料変質のメカニズムを明らかにし,それに基づいて,コンクリートの早期劣化現象などを説明することを目的とした. 今年度は,まず,実際の事故例である山陽新幹線トンネルの事例の調査を行なった.ここで,当初考えていたものと,やや違う知見が得られた.事故当時,新聞報道や一部のコンクリート工学の研究者などから,コンクリートの劣化などが問題視される傾向があったが,文献調査や講演会&シンポジウムを通じて得られた情報より,必ずしもそうでないことが判明した.まず,トンネルという現場は特殊な現場であり,元来,コンクリートが打設しにくいこと,急速な施工が望まれたことなどにより,「質の悪いコンクリート」が人為的にもたらされた可能性が高いことが事故の原因の一つであった.さらに,そうした施工上の難しさに加えて,「地山」という不確定性の高い自然による「偏差的な力」なども原因の一つであることが判明した.つまり,「良いコンクリート」が打設できれば,工学的に問題となるような材料変質は考え難いということである. 来年度は,前者の問題は,研究レベルとして捉えがたいため,後者のような「厳しい状況にさらされた場合の材料の変質」を,解析的なアプローチによって検討する他に,今年度後半から開始した,「コンクリートの促進試験」の結果を見て,ごく普通のコンクリートがどのように変質するか,追跡を行なう予定である.
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