研究概要 |
バリアフリーという言葉が一般化されつつあるが,現状では障害者や高齢者の周囲に様々な障害(バリア)が残っており,彼らの日常生活を阻害する要因の一つとなっている.なかでも,周囲の状況を視覚的情報なしに把握しながら移動しなければならない視覚障害者にとって,単独での外出は困難かつ危険なことである.しかし,彼らの社会参加には屋外での移動は必要不可欠であり,公共交通機関の利用や道路横断はそれを妨げるものであってはならない. わが国では視覚障害者の移動支援施設の代表的なものの一つに音響式信号付加装置(音響信号機)がある.これは視覚障害横断者に横断可能なタイミングを音で知らせるもので,最近では歩行方向同定のための手がかりも付与した改良式のものが開発され,実際に運用されている.しかし,方向定位に音を手がかりとするためその性能は周囲の環境に大きく依存し,これだけでは安全で正確な道路横断のための手がかりとしては不充分な場合もある.また音響信号機以外では,押し釦式の信号機の押し釦ボックスに隆起した矢印や触図を付加し,周囲の環境認知や,歩行方向同定の手がかりとするものもある.しかし,その触角的手がかりはわが国の障害者や高齢者に最適化がなされていないのが現状である.聴覚的な手がかりと触覚的な手がかりは相互に干渉することなく,併用することで相乗作用も期待できる. そこで本研究では,最適な触覚的手がかりを開発するために,その形状や使用形態を検討するものである.初年度は触覚的手がかりの最適形状を決定する基礎資料を得るために,突起(溝)の高さ(深さ),幅,長さなどを変数として,主観的評価法を用いた実験を行った.これにより,最適と思われる触覚的手がかりの特徴が明らかになったので,次年度は触覚的手がかりの最適モデルを作成し,実際の歩行方向同定にどの程度貢献できるかを,聴覚的手がかりとの相互作用も含めて検討する.
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