本研究の目的は、地理情報システム(GIS)の技術を利用して流域の人口動勢や土地利用等の情報を取り入れることにより、流域都市群内での水系感染症の流行伝播を予測するためのモデルを開発することにある。本年度は以下の研究を行った。 1.各種環境水からの病原微生物の定量検出:阿武隈川中流域の郡山市、二本松市、福島市において河川水および下水処理放流水からの指標微生物、病原微生物の定量検出を数回行った。福島市において水道原水として取水している阿武隈川は、上流部で郡山市、二本松市からの下水処理放流水を受容しており、これらの都市群間での感染症伝播が懸念され、実際に福島市の水道水源付近の河川水からは高い大腸菌群数が確認されたケースもあった。 2.下水汚泥コンポストからの病原微生物の定量検出:下水汚泥を原料とするコンポストは、汚泥由来の病原微生物に汚染されている可能性が高く、その緑農地還元が流域の感染リスクの増大につながる危険性がある。数種類のコンポストからサルモネラ、大腸菌O157、腸管系ウイルスの検出を行ったが、重量1gのコンポストからはいずれの病原微生物も検出されなかった。 3.二次感染を考慮した感染症流行のモデル化:流域の感染流行を議論する場合、水利用による直接的な感染とともに、感染者と接触することによる二次感染も重要である。福島市周辺の人口分布(1km四方のメッシュ単位)をもとにして、感染者との接触機会をメッシュ間の距離で表現することで、この二次感染を考慮した感染症流行をモデル化し、感染者から排出された病原微生物が下水に混入するまでの過程を表現できるようになった。 4.下水処理水再利用に伴う感染リスク評価:福島市を対象とした下水処理水再利用システムを仮想的に構築し、感染リスク評価を行った。その結果、塩素処理を施した処理水を水道水源の一部として利用する場合、現状の感染リスク(10^<-3>種皮)と比較して明確なリスク増加は見られなかった。
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