本研究では、プレストレストコンクリート造構造物における梁柱接合部内の軸力がPC鋼より線のτ-S特性に及ぼす影響を把握することを目的として実験を行った。実験では、コンクリート中に配したシース内にPC鋼より線をグラウト定着した試験体10体を用い、横圧の有無を実験変数としたPC鋼より線の正負繰り返し載荷引き抜き試験を行った。実験結果から、以下の4点が判明した。 (1)横圧の有無に関わらず、降伏点剛性は35MPa/mm〜45MPa/mm程度であった。また、横圧を与えている試験体は横圧の無い試験体に比較して付着降伏点におけるすべり量が0.03mm〜0.05mm程度小さい傾向が見られた。 (2)付着降伏点における付着応力度は横圧を与えていない試験体が4MPa程度で最も大きかった。横圧を与えている試験体の中では、横圧量が大きいほど降伏点付着応力度は大きくなる傾向があり、横圧の存在による付着劣化の影響があると思われる。 (3)繰り返し載荷における包絡線形状は、横圧の影響を受けないことが分かった。 (4)繰り返し載荷をおける付着応力-滑り関係における履歴ループ形状は、横圧が0.1Ag・f_c'〜0.3Ag・f_c'の範囲の試験体では、ほぼ同じ大きさと同じ形状を示した。また、横圧が0.4Ag・f_c'と0.5Ag・f_c'の試験体もほぼ同じ大きさと同じ形状を示した。しかし、横圧が0.3Ag・f_c'から0.4Ag・f_c'に変化すると0.4Ag・f_c'の試験体における履歴ループの付着応力振幅は、どのような滑りにおいても0.3Ag・f_c'の試験体の約2倍を示した。これも、横圧を与えたことによる付着劣化の影響ではないかと思われる また、実験結果と過去に提案されたPC鋼より線のτ-Sモデルとの比較を行った。付着降伏点付近では是永モデルと比較を行い、繰り返し載荷時においては当研究室の前回の付着実験によって得られたτ-Sモデルとの比較を行ったが、どちらのモデルも実験結果を精度良く表現することはできなかった。
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