本研究の目的は、防災無線を具体的事例として、ある地域全体に対して、その中であればどこに居ても聞えるように鳴される音が、そこに居合わせる人々に騒音と見なされる条件、及び、見なされない条件について、明らかにすることである。 昨年度実施した福島県下の全自治体に対する防災無線の実態調査において、各自治体が防災無線で放送している内容と市町村勢の間には非常に密接な関係があることが明らかとなったのを受け、本年度は、福島県下の都市部の自治体と山間部の自治体のそれぞれにおいて、性格の相異なる複数の地区を選出し、住民に対する防災無線に対する意識調査を行なった。 その結果、防災無線に対する住民の評価は放送内容ごとに異なっていることがわかった。具体的には、災害情報は地区を越えて肯定的に評価され、選挙投票日の告知は地区を越えて否定的に評価されていた。交通情報や気象情報等は、地域の特性に応じて限定された地域においてのみ肯定的に評価されていた。また、町内会関連の放送は、町内会との関わりあいの弱い人々に騒音として捉えられていた。 また、山間部においてはどの地区においても防災無線で放送されている内容について正確に把握されていたが、新興住宅地においては防災無線による放送の存在自体を知らない世帯が多く、このような世帯層の存在が、必ずしも必要とはされていない放送が無批判に流される原因となり得ることが明らかとなった。 さらに、住民の意識調査の結果の中には、防災無線の音の大きさに対する苦情は、スピーカの近所に在住する世帯からごく少数見られただけであった。 これらの結果より、防災無線による放送が騒音と見なされるか否かを決定づけるのは、音響学的な要因ではなく、放送内容が放送されている地域においてどのように受容されているのかという社会的な要因であると結論づける。
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