神戸市灘区の六甲山南麓市街地において実施した観測結果を基に、広域海陸風と冷気流の出現頻度の関係、及び、市街地における冷気流の影響距離に関する検討を行い、以下の結論を得た。 広域海陸風の風速が小さいときに冷気流の出現率が高く、冷気流の出現時間のうち91%が、上空100mの風速が4m/s以下のときであった。谷口で確認された冷気流の風速は2m/s程度に集中していた。ただし、広域の風が谷から市街地へ向かう条件のときには広域の風により強められて風速は4m/s程度にもなった。 広域海陸風が強い場合には、谷の中で生成された冷気は谷底の気温を一時的に低下させるが市街地内の気温を低下させる前に広域の風によって吹き消される。しかし、広域海陸風が弱い場合には、谷の中で生成された冷気が市街地内で熱交換を行いながら徐々に気温を低下させる。ただし、山から離れると気温低下の効果は小さく、その時間もかなり遅れる。 以上のことから、広域海陸風が弱い条件に限り、山際から1km程度までの市街地において冷気流による気温低下効果を期待できる。しかし、山から離れるとその可能性は低くなり、広域の風が強くなると冷気流は吹き消され、市街地での気温低下効果は期待できなくなる。 谷の中での測定とモデル計算により、冷気の集積、流出の過程について検討を行い、以下の結論を得た。 谷の中の気温を比較すると、広域海陸風の弱い場合には、堰堤で最も低く、中間、上流の順になっており、冷気集積効果を反映していた。広域海陸風の強い場合には、堰堤で集積された冷気が混合されたり吹き払われ、上流、中間地点との気温差が小さくなっていた。堰堤での温位の鉛直分布より、冷気層の厚さは既往の研究において斜面で観測されたものよりは厚かったと考えられ、谷の冷気集積効果を反映していたと思われる。浅水方程式モデルにより、広域海陸風が弱い条件での冷気の集積、流出過程について検討を行った結果、地形により冷気が谷筋に集積され、重力に従って標高の低い方へ流出する様子が再現された。浅水方程式モデルを用いて、広域海陸風が弱い場合の神戸市全域における六甲山の谷等から流出してくる冷気流の分布(谷による集積)が求められた。 樹林内における冷気生成メカニズムを知るため、実測調査と数値計算により気温鉛直分布の形成機構について検討を行い、以下の結論を得た。 晴天夜間は気温低下が大きく、上下気温差の変動も大きい。曇天夜間は日没後の冷気の集積と思われる一時的な気温低下が見られるが、その後の気温低下は小さい。数値計算でも実測結果と同様の現象を再現することができた。
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