昨年度は非専門家の設計プロセスを調査し、非専門家の描図シークエンスには一定の型が見られ、それが出来上がり図面のゆがみを生じさせていることを明らかにした。本年度は建築の専門教育を一応終えた者として建築学専攻大学院生と、教育途中にある建築学科学生とを対象に、よりゆがみを生じやすいと思われる変形建物の中に住宅に必要な諸室をとる実験を行い、専門家・教育途上の学生がゆがみを生じないで設計するときにどのような手段をとり得るのか考察した。 実験では両者とも設計プロセス全体を通してある特徴的な場所に線を描く傾向があることが判明した。そしてこの場所が何によるかを判明させる追加実験を行った結果、一般の理系学生が知覚する図形のわかりやすい2分割線と、設計プロセスで線が描かれやすい特徴的な場所とはある程度一致する傾向が認められた。 設計が2次元上の図の描出と切り離せない営みであることは、設計行為の研究者たちがこれまで様々な研究により主張してきた。しかし、たとえば建築設計において、2次元の図形の特徴がどのように設計プロセスと関わるかについては、F.Ching(1979)に代表される経験的な形態報告の記述があるのみで、これまで知覚をベースとした体系的な議論がされてこなかった。 設計とは、単に図の上に新しい空間を並べるというばかりではなく、描かれた図の特徴の知覚に基づいて行われる営みでもあるということを、実験的手法によって確認できた点で、この研究は成果があった。そしてこれは、横山が指摘した素人による設計プロセスの限界(昨年度研究成果)に対して、教育的示唆を提供する議論でもある。
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