研究概要 |
「論文データベース」(平成12年度作成)の対象としたアウトによる論文の精読を行うとともに、データベースを活用し収録全論文中に「新即物主義」に関するキーワード(Nieuwe Zakelijkheid, Nieuwe Bouwen等)による検索を行い、その経年的な意味内容の把握に努めた結果、既にデータベース作成過程で'Nieuwe Zakelijkheid(新即物主義)'に先行する使用が確認された'Neue Bewegung(Nieuwe Beweging)'という概念が、単に類似した意味にとどまらず、'Nieuwe Zakelijkheid'の根幹に位置していたことが明らかとなった。つまり1920年後半になって顕現する「新即物主義」という運動が、1920年代前半には既に明確な輪郭を持ち始めていたのであった。 アウトは、「近代的なるもの」を超えていくものとして'Neue Bewegung'を対比的に措定している。アウトにとって「近代的なるもの」とは、個別的な、独立的な事象であり、それはP.J.Hカウパース、H.Pベルラーヘ、そしてアムステルダム派といった19世紀後半以降の先達の活動、作品を意味していた。アウトによれば、彼らはオランダ近代建築の発展になくてはならない存在でありながら、形態の固定化への固執から趣味の問題へと滑り落ち、結局は個人的な問題に留まったのであった。それに対して'Neue Bewegung'は、様式を形態ではなく内と外の関係に還元したことで、地域や時代に拘束されない柔軟性を獲得することとなり、国際的な広がりを持ち得たのであった。本研究を通じて、'Neue Bewegung'の即物的な性向が、内面化された現実としての「実際的な要因」に発するものであったこと、さらには、アウトがこの即物性を自身の1920年代後半の「新即物主義」へと展開、発展させていったことが明らかとなった。
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