熱電発電とは、温度差のあるところから電気エネルギーを直接取り出す発電方式であり、環境にやさしい発電方法として関心が高まっている。これに必要な材料が熱電変換材料であるが、その中で金属ケイ化物は、原料が天然に多く存在し、毒性がなく、高い熱電変換効率を持つ材料として注目されている。本研究の初年度では希土類金属元素のケイ化物や三元系のケイ化物について合成と測定を行い、その熱電特性について調査した。本年度では、ケイ化物の中で高い電気伝導度を持つことが知られている二ケイ化コバルトに着目し、特に、ゼーベック係数の絶対値が低いことを改善する目的で、CoSi_2にSiを添加して複合体とする方法と、Siの一部をBで置換する方法の二通りを試み、電気的性質の変化について検討した。 具体的にはまず、真空封管したコバルトおよびケイ素粉末を1050℃で2h加熱することにより、二ケイ化コバルトの単一層の粉末を合成し、これを、900℃-125MPa、という温度および圧力下で、2h、HIP焼結することにより相対密度96%を持つ緻密化した焼結体バルク試料を作製することに成功した。次に、この方法でCoSi_2とSiとの複合体バルク試料を作製し、その電気的性質を評価した。その結果、CoとSiのモル比が1:2から1:4.7までは添加量の増加に伴って電気伝導度が低下、ゼーベック係数の絶対値が増加する傾向を示し、モル比が1:4.8を超えると、電気伝導度は急激に上昇、ゼーベック係数の絶対値が低下するという現象を見出した。この結果は、電気伝導を支配している物質がCoSi_2からドープされたSiへ交替するというパーコレーションの観点から説明することができた。一方、Siの一部をBで置換して得られたバルク試料の電気伝導度は半導体的となり、その値は置換量と共に低下した。また、そのゼーベック係数はほとんど変化しなかった。この結果から、ホウ素の置換がCoSi_2の電子移動度を低下させるものの、電子状態にはあまり影響を及ぼさないことがわかった。
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