研究目的 放射線療法は癌治療の有力な方法の1つであるが、体外から放射線を照射すると、体内深部の癌に十分な量の放射線を照射できないだけでなく、体表付近の正常組織を傷める。最近、直径20〜30μmの17Y_2O_3-19Al_2O_3-64SiO_2(mol%)(YAS)ガラス微小球が癌を局部的に放射線して治療する材料として有用であることが示された。しかし、同ガラス微小球中のイットリウムの数は少ない。酸化イットリウムのみからなりしかも化学的耐久性に優れた真球度の高いセラミック微小球が得られれば、同微小球は、従来のY_2O_3含有ガラス微小球よりも高い治療効果を示すと期待される。本研究は、高周波誘導熱プラズマ溶融法により、酸化イットリウムのみからなり、しかもこれを溶出し難い、直径20〜30μmの真球度の高いセラミック微小球を合成する条件を追究することを目的とする。 研究成果 原料粉末に高純度Y_2O_3粉末を用い、これを高周波誘導熱プラズマ溶融法により微小球化し、さらにこれをふるいにかけることにより、Y_2O_3のみからなるセラミック微小球の作製を試みた。粉末X線回折測定によれば、得られた微小球は、立方晶Y_2O_3の微粒子からなる多結晶体であることが分かった。また、電界放出型走査電子顕微鏡観察によれば、得られた微小球は、高い真球度を有し、しかもその直径は20〜30μmに精密に制御されていることが分かった。同微小球は、60℃のpH-7HEPES緩衝生理食塩水中に7日間浸漬されても、ほとんどイットリウムを溶出しなかったが、pH-6HEPES緩衝生理食塩水中に浸漬されると、YASガラス微小球から溶出したイットリウムの約2倍のイットリウムを溶出した。これはY_2O_3が希酸に可溶なためと考えられた。以上より、本法により得られたY_2O_3微小球はその表面を化学的耐久性に優れる何らかの被膜でコーティングすることにより、癌放射線治療用セラミック微小球として有用となり得ると考えられた。
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