本研究の材料の核となる光駆動プロトンポンプである膜蛋白質バクテリオロドプシン(BR)の天然型分子を、ベッカーとカシムの手法により、必要十分な量だけ調製した。次に、人工BR蛋白を作製する際に必要となるペプチドの設計と合成を行った。一部のペプチドについては、さらに高速液体クロマトグラフによる高純度精製を行った。次にこの人工BR蛋白の作製に必要な予備実験として、BR蛋白の二次構造、三次構造が温度や溶媒の効果によってどのように変化するかを調べるため、温度20℃において、sec-ブチルアルコールを用いた弱い変性過程とその際に生じる中間体からの復元過程を分光測定と遠心分離法の組み合わせにより解析した。その結果、中間体からの復元により得られるBR蛋白では元の蛋白よりも光吸収が長波長にシフトし光吸収極大が波長568nmから583nmとなることが分かった。またこのとき生じる中間体は、BRを3個のポリペプチドから再構成して得られる人工BR蛋白(recBR)の25℃以下の温度領域において観られる中間体の光吸収スペクトルに近い分光学的特性を持っていた。このことは、付随的に新しく得られた知見である。 無機材料側のシリコン(Si)の膜は、ECRプラズマスパッタ装置またはRFマグネトロンスパッタ装置により作製することにし、原材料であるシリコン基板をスパッタ実験用に加工し、膜作製に取り組んでいる。現在までに、数ミクロンの膜厚のシリコン(Si)膜、アモルファスシリコン(a-Si)膜を作製した。今後、水素化シリコン(Si:H)と水素化アモルファスシリコン(a-Si:H)の作製条件の決定の実験を行う予定である。一方で現在まで得られたBR蛋白とシリコンの膜を接合し、温度や光の刺激変化等に対してどのように膜電位が変化するか時間変化として測定する実験を行っている。今後、蛋白質材料と無機材料の双方の種類を増やしつつ、それらの接合膜の作製と特性の評価を行なう。
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