本研究では、界面活性剤によって形成される逆ミセルを微小反応場と利用してZnS:Mnナノクリスタルを合成し、さらにリン酸系界面活性剤PhosHを添加したときのMn^<2+>による発光の強度変化を調べた。ヘプタン/AOT/H_2O系逆ミセル溶液を調製し、同逆ミセル溶液80cm^3に1MZn(CH_3COO)_2水溶液0.545cm^3および0.1MMn(CH_3COO)_2水溶液0.05cm^3を混合した。この溶液を、所定のS/(Zn+Mn)モル比になるようにNa_2Sを含む逆ミセル溶液30cm^3に混合し、ZnS:Mn^<2+>ナノ粒子が分散した透明なサスペンションを合成した。このとき、すべてのサンプルで[H_2O]/[AOT]が9.64となるように調製した。さらに[PhosH]/[AOT]=0.0943になるようにサスペンションにPhosHを加えた。ZnS:Mn^<2+>ナノ粒子が分散したサスペンションのUV-Vis吸収スペクトルはS/(Zn+Mn)モル比の減少とともにブルーシフトした。これはZnSのバンドギャップ(Eg)がS/(Zn+Mn)モル比の減少に伴い増加することを意味する。吸収端から求めたEgを用いて、有効質量近似法によって求めた光学的粒子直径は、S/(Zn+Mn)モル比が1.6から0.6に減少するに伴って3.3nmから2.8nmへ減少した。この原因としてS/(Zn+Mn)モル比の減少に伴う逆ミセル内のアニオン濃度およびpHの減少、PhosH添加によるpHの減少および逆ミセル同士の衝突頻度の減少が考えられる。ZnS:Mn^<2+>ナノ粒子が分散したサスペンションは、どの試料もMn^<2+>のd-d遷移によるオレンジ色(波長580nm)発光を示す。この発光に対する励起スペクトルはS/(Zn+Mn)モル比の減少に伴い光学的粒子直径と相関してブルーシフトした。これより、S/(Zn+Mn)モル比を操作することによって粒子直径およびMn^<2+>の発光に最適な励起波長を制御できることが明らかにされた。ZnS:Mn^<2+>ナノ粒子が分散したサスペンションにPhosHを添加することで発光量子効率は増大した。PhosH添加による発光量子効率の増大量はx=1.2のところで最大であった。^<31>P-NMRのケミカルシフトも類似の傾向が見られることから、PhosHとZnS:Mn^<2+>との相互作用が発光効率の増加に重要な役割をすることが明らかにされた。
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