本研究では巨大磁歪を有するTb-Fe合金とナノ結晶軟磁性材料であるFe-Si-B-Nb-Cu合金および純Feとの多層化により、スピンフロップに起因した新奇な磁歪現象について詳細に研究を行った。具体的には、軟磁性層中のFeとTb-Fe層中のTbが層間交換結合により反強磁性的に結合するため、ある印加磁界において磁化がジャンプ(スピンフロップ)する。その際、磁場印加により磁歪の符号が2回変化する新奇な現象を見いだした。本研究ではこのスピンフロツプに伴う磁歪現象を明らかにするために以下の研究を行った。 (Tb-Fe/Fe-Si-B-Nb-Cu)多層膜を通常の3元RFスパッタ装置を用いて並ガラス基板上に作製した。Tb-Feの組成は本合金系において最大の磁歪が得られ、薄膜化した場合に垂直磁気異方性を示すTbFe_2から成膜時に面内異方性を示すTb_<42>Fe_<58>(at.%)まで変化させた。総膜厚は500nm程度となるように各層の積層周期を変化させた。 [Tb-Fe/Fe-Si-B-Nb-Cu]多層膜は約2kOe以上においてスピンフロップが観測され、TbFe層厚の減小によりスピンフロップ磁場が高磁界側にシフトした。また300℃程度の熱処理により成膜時に膜中に誘導された残留応力が除去され、明瞭なスピンフロップが観測されるこどが確認された。一般に磁歪測定に用いられる光てこ法は室温において、また印加磁場が5kOeまでの磁歪しか測定ができない。そこでより高磁場のスプンフロップに伴う磁歪現象を測定するために、光ファイバー方式非接触レーザー変位計を現有の電磁石(最大印加磁界:±20kOe)に組み込み、磁歪計測が可能な測定装置を構築した。その結果レーザー変位計を用いることにより、高磁界の磁歪測定ならびに温度変化(液体窒素温度より300℃程度まで)の測定が行えることが確認された。除振台の採用、熱膨張変化の少ない試料ホルダの作製、コンピュータ制御等によりドリフトおよびノイズの減少が期待され、またコンパクトな測定ユニットであるため、超伝導マグネットを用いることにより交換結合磁歪のメカニズムが今後明かになるものと期待している。
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