走査型電子顕微鏡(SEM)内で破壊靭性試験ができる材料試験機ユニットを設計・作製した。Al-Li-Cu-Mg合金(2091合金)およびAl-Mg-Si系合金(6061合金)を、それぞれ金属間化合物粒子が多い、および少ない場合のモデル材料として選定し、その中に含まれる粗大な金属間化合物粒子の損傷がアルミニウム合金展伸材の力学的性質、特に破壊靭性に及ぼす影響を実験的に評価した。具体的には、破壊靭性試験のSEM内その場観察を、それらの材料中の直径1、ないし数μm以上の粗大な金属間化合物粒子の損傷およびそれらがき裂の伝播挙動に与える影響を調べるために実施した。一連の観察により、ある種の粒子は破面の極く近傍でも損傷を受けないのに対し、他の種のものはき裂先端前方の遠く離れた位置まで広範囲にわたって破壊されることがわかった。き裂先端の応力特異性と微視力学解析の組み合わせにより、粒子のその場強度を推定した。粒子強度は強いサイズ依存性を有すること、高粒子体積率の場合には、損傷粒子の影響でき裂偏向や二次き裂の生成が生じることなどが明らかになった。また、破壊力学解析により、き裂伝播抵抗の低下は、マイクロクラックの存在によるモードIき裂進展駆動力の上昇によることが明らかとなった。 さらに、実験で得られたこれらの知見に基づいて、き裂伝播シミュレーションのアルゴリズムを検討した。粒子の損傷基準としては、転位論に基づく転位のパイルアップによるものよりも、連続体力学に基づく応力ベースの基準が妥当であると結論された。また、既存の応力遮蔽効果の解を用いることで、損傷粒子に起因する微小き裂がき裂を偏向させる挙動がよく予測できることも明らかとなった。
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