マルテンサイト組織を有する9Cr系耐熱鋼のクリープ変形に伴う組織変化におよぼすラス境界、ブロック粒界およびパケット粒界の影響を明らかにするための基礎的知見を得ることを目的として、平成12年度では、主に9Cr-0.1C-3.0Co-0.2V-0.05Nb鋼と改良9Cr-1Mo鋼の粒界性格の解析を行い、以下に示す幾つかの新たな知見を得た。 1.9Cr-0.1C-3.0Co-0.2V-0.05Nb鋼と改良9Cr-1Mo鋼の未変形材中の粒界性格解析より、両鋼のブロック粒界とパケット粒界の性格が、多くの場合、マルテンサイト変態がK-S関係を満たしている場合に予想される性格に一致していることを明らかにした。 2.9Cr-0.1C-3.0Co-0.2V-0.05Nb鋼の温度700℃、負荷応力70MPa〜45MPaのクリープ破断材についてEBSP法を用いた組織観察と粒界性格の解析を行った結果、クリープ変形の進行に伴い、パケット粒界を起点とした動的再結晶が生じることをはじめて見出した。また、この動的再結晶粒の粒径は、負荷応力が低いほどすなわち破断時間が長いほど、大きくなる傾向を示した。この動的再結晶の発生と破断寿命との関連性について検討した結果、パケット粒界を起点とした局所的な組織変化(動的再結晶)は、高Cr系耐熱鋼で報告されている長時間クリープにおける著しい強度低下発生の主因である可能性が高いことが示唆された。 3.改良9Cr-1Mo鋼中のラス境界について透過電子顕微鏡観察および菊池線法による粒界性格の解析を行った結果、平均ラス幅は0.5μm、方位差は5°以下であった。また、ラス境界の共通回転軸には、ブロック粒界やパケット粒界のようにある特定な共通回転軸のみに限られるという特殊性は認められなかった。
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