マルテンサイト組織を有する9Cr系耐熱鋼のクリープ変形に伴う組織変化のメカニズムを解明するための基礎的知見を得ることを目的に、本研究では主に改良9Cr-1Mo鋼と前年度検討を行った9Cr-0.1C-3.OCo-0.2V-0.05Nb鋼(以下9Cr-OW鋼)にWを3mass%添加した9Cr-0.1C-3W-3.OCo-0.2V-0.05Nb鋼(以下9Cr-3W鋼)のラス境界、ブロック境界およびパケット境界の形態および粒界性格とこれらのクリープ変形に伴う変化を透過電子顕微鏡と方位像顕微鏡を用いて解析した。以下、本研究により得られた幾つかの新たな知見を示す。 1.9Cr-3W鋼の未変形材中のブロック境界とパケット境界の性格は、前年度検討を行った2種類の耐熱鋼と同様にマルテンサイト変態がK-S関係を満たしている場合に予想される性格とほぼ一致していた。この結果より、マルテンサイト組織を有する高Cr耐熱鋼中のブロック境界は<111>軸を共通回転軸に持つΣ3と<110>軸を持つ粒界に限定されるのに対して、パケット境界は旧オーステナイト粒界と同様にランダム粒界と見なせることが明らかになった。 2.温度700℃、負荷応力70MPaの9Cr-3W鋼クリープ破断材では、前年度報告した9Cr-OW鋼で確認されたパケット境界を起点とした動的再結晶は認められなかった。この結果は、Wに旧オーステナイト粒界やパケット境界といったランダム粒界から生じる動的再結晶を抑制する効果があることを示唆している。 3.改良9Cr-1Mo鋼中のブロック境界とパケット境界の形態および粒界性格は破断直前までほとんど変化しなかった。一方、ラス境界の形態はクリープ変形と共に変化し、破断時にはラス幅が初期の0.5μmから3μm以上と増加していた。ところが、ラス間の平均方位差はほとんど変化しなかった。 以上の得られた知見より、9Cr系耐熱鋼の高温強度特性劣化の原因となる組織変化にランダム粒界であるパケット境界や旧オーステナイト粒界が深く関与していることが明らかになった。また、その抑制には固溶強化能の大きな元素の添加が有効であることが示唆された。
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