研究概要 |
内部応力超塑性は,ある種の材料に熱サイクルを付加することにより,相変態や熱ひずみのミスマッチを生じさせ,誘起された内部応力を利用した超塑性である.本研究では,これまで熱サイクル条件下でのみ報告されていた内部応力超塑性が,荷重サイクル条件下においても誘起されることを確認する.ところが最近,Pb-Al_2O_3粒子分散複合材料に室温で荷重サイクルを付加すると,内部応力超塑性らしき挙動が出現するとの報告(Huang and Daehn,1996)を見つけた.彼らは,伸びや変形速度の応力依存性に関しては報告しておらず,圧粉された複合材料に荷重サイクルを付加すると,一定荷重条件下に比べて密度が劇的に上昇することを示した.実際,相変態による内部応力を利用して鉄やチタン粉末の密度が向上することに関する研究が数件報告されており,この密度増加は広義の内部応力超塑性である.筆者は,予備実験として,Pb-Al_2O_3粒子分散複合材料を作製し,その内部応力超塑性について調べることとした.また本実験は,粉末から粒子分散金属基複合材料を作製するプロセスを確立するという側面も有する. 純度99.9%の鉛粉末と平均粒子径5μmのアルミナ粉末をボールミルを用いて混合した後,ダイスに充填し,約900MPaで一軸プレスを行った.圧粉体中のアルミナ粒子の体積分率は31%である.圧粉体を室温にて押し出し比8.4で押し出し,円柱状圧縮試験片を得た.同様の手法により,アルミニウム基複合材料も作製できたため,粉末冶金プロセスの確立に成功した. 作製したPb-Al_2O_3複合材料を用いて,まず373K付近で熱サイクルクリープ試験を行った.しかしながら鉛とアルミナの熱膨張率に大きな違いがあるにもかかわらず,内部応力超塑性特有の線形クリープが観察されなかった.アルミニウム基複合材料と全く同じ条件にもかかわらず内部応力超塑性が誘起されなかった原因は,今のところ不明である.この問題の検討と荷重サイクルクリープ試験の実施は,次年度の課題とする.
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