拡散係数、熱拡散係数を実験的に求めるための装置を作製した。必要なガス循環用のポンプを手作りし、拡散、熱拡散によって分離した分子種の濃度測定のためのマスフィルタガス分析計は既存もの利用して装置に取り付けた。手始めに、装置の試験として、ヘリウム-六弗化イオウ系を題材に熱拡散係数の測定を行なった。測定結果は既往の論文と良い一致を示し、熱拡散係数測定装置としての妥当性が確認できた。また、室温以下での測定を行うために、冷却用のジャケット取り付けるなどの改良を行い室温近傍でのデータも得た。 また、分子動力学法(MD)による二成分剛体球モデルに対応した熱拡散係数の推算コードの作成を行なった。シミュレーションコードの正当性の確認のため、統計力学より導かれる平均自由行程および拡散係数の値の比較を行なったが、シミュレーション値のほうが1〜2割大きい値となった。MD計算法では統計量を正しく推算できるほど多量の分子を扱うには、現在のコンピューター能力ではまだ無理であると判断したため、時間変化を追えないが平衡状態の記述が得意であるモンテカルロ法(MC)を用いたコードを作成し、Iennard-Jonesポテンシャルを用いてシミュレーションを行った。Lennard-Jonesポテンシャルを用いることで、剛体球モデルと違い熱拡散係数の温度依存性などよく表現でき、Kihara近似式とよく一致する。ただし、Kihara近似式自体・実分子への応用には限界があり、より現実的なポテンシャルを用いたMCプログラムの開発へと研究を展開していく必要があると思われる。また、剛体球およびLennard-Jonesポテンシャル近似が妥当でないと思われるヘリウム-プロパン(直鎖型の分子)についての熱拡散係数の測定実験など、多様な形状の分子についてデータの収集を行った。
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