本研究では、超臨界晶析を利用した芳香族化合物異性体の分離手法の開発を目的として、超臨界二酸化炭素中の芳香族化合物の結晶化現象を検討した。分離モデル物質としては、単純共晶系であるナフタレンおよびp-クロロニトロベンゼン(p-CNB)を取り上げた。現有設備である半回分式流通型実験装置に可視窓付結晶成長観察セルを設置することにより、超臨界状態下における結晶化現象を視覚的に観察することを可能にし、超臨界二酸化炭素中のナフタレンの結晶成長速度の測定を行った。実験方法としては、CCDカメラにより結晶成長観察セル内の結晶成長の様子を視覚的に観察し、その結果より超臨界二酸化炭素に対する溶質の結晶成長速度を決定した。実験は、圧力20MPa、飽和温度310.2K、過飽和度0.02〜0.2Kの条件下で行った。得られた結果より、一定過飽和度では圧力が大きいほど結晶成長速度は速いことが分かった。また、一定圧力下での結晶成長速度は過飽和度に対して線形性を持つことより、超臨界二酸化炭素中でのナフタレンの結晶成長機構は圧力に依らず同じであることが示された。次に、超臨界二酸化炭素中のp-CNBの結晶成長実験を温度308.6Kで試みたところ、圧力が二酸化炭素の臨界圧力を超えた付近(約7〜8MPa)で結晶が液化することが確認された。これより、超臨界二酸化炭素中でp-CNBは固体結晶ではなく、液化していると考えられるため、超臨界二酸化炭素中での結晶成長を観察することは困難であることが明らかとなった。この現象は、二酸化炭素の圧力増加に伴い、固体に対して二酸化炭素が溶解し、固体の融点が降下することにより起こるものと考えられる。超臨界二酸化炭素-p-CNB系の場合、超臨界状態下で物質が固体状態を保持することが困難であるため、超臨界晶析を適用することが不可能であることがわかった。
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