研究概要 |
界面を分離場とした高性能な分子認識材料を調製するためには,分子認識発現のメカニズムを明らかにし,これまで以上に分子認識場を精密に制御する必要がある。本研究では,錯体化学的実験手法とコンピュータ分子モデリング手法を駆使して,金属イオン分離機構の解明に取り組む。これを足がかりに,より高性能な分子認識素子を設計し,分子モデリングを利用した分離材料の設計という新しい分子認識素子開発手法の確立を目指す。 分離のターゲットは,これまでに多くの実績のある金属イオン(銅,亜鉛などの遷移金属およびランタノイド元素)とした。分子認識素子は,ターゲット分子の形状や化学的性質を高分子に刷り込む手法である界面分子インプリント法および抽出操作において有効であったリガンドを採用した。分子モデリングとしては,巨大な遷移金属およびランタノイド元素錯体を計算するのに最適なプログラムであるMOMECを用いた。MOMECは計算速度が非常に速い分子力学法に基づく計算手法であり,そのパラメータ群が金属錯体に最適化されている。 昨年度は,二つのホスホン酸基をスペーサーによって連結したジホスホン酸型抽出剤について,ひずみエネルギーと抽出定数との定量的構造特性相関法(QSPR)を行ったところ,良好な直線関係が得られ,本手法の有用性を確認した。本年度は,分子モデリングで得られた情報を活用するために,分子動力学法による油水界面での分子認識素子のシミュレーションに着手した。それとともに,計算結果の評価を正確にするために、ポリマーマトリクスが分子認識能へ与える影響を実験的に評価した。その成果が,化学工学論文集に掲載された。現在,分子認識素子の構造のちょっとした違いで,油水界面での分子認識能が大きく変化すると考えられる系について,分子動力学計算を行っている。
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