球状多分岐高分子であるデンドリマーの外部および内部を金属活性種の固定化部位として、新規な巨大分子状Pd錯体の調製とその特異な触媒作用の検討を行なった。 1.外殻型デンドリマー固定化Pd(0)錯体による立体選択的アリル位置換反応 末端官能基の修飾が比較的容易なポリアミンデンドリマーを用いて、ホスフィン化デンドリマーを合成し、さらにPb(II)錯体の固定により、新規なデンドリマー固定化Pb(0)錯体を調整した。第1-5世代のデンドリマー触媒を用いた立体選択的アリル位置換反応を行い、デンドリマー世代数の増加に伴い立体選択性が向上することを見出した。NMRを用いたデンドリマー末端基の緩和時間測定から、世代数増加に応じて表面のパラジウム種周辺の込合いが大きくなり、π-アリル種への求核材の攻撃経路が制限されるためと結論づけた。さらに、本錯体が極性溶媒にのみ溶解し、非極性の炭化水素溶媒にはほとんど溶解しないことから、温度によって可逆的に相分離するthermomorphic系を用い、従来、限外ろ過法や沈殿法により回収していたデンドリマー触媒の回収・再利用が効率よく行えることを見出した。 2.内殻型デンドリマ固定化Pd(0)錯体によるアリル位置換反応 末端アルキル化により単分子逆ミセル状としたデンドリマーに、Pd(II)ホスフィン錯体を取り込み、in situで還元することにより、テンドリマー内部に配位不飽和なPd種を合成した。本固定化Pd(0)触媒を用いてアリルを位置換反応を行い、デンドリマーの表面修飾により、内部の活性種近傍の立体的環境は変化させず、逆ミセル状の形状を利用して配位不飽和なPd(0)種を固定化でき、ナノリアクターとして作用することを明らかにした。末端をポリエーテル鎖とすることで、活性点近傍の環境を変化させずに溶媒への溶解性のみが変化し、themmomorphic系への応用が可能となり、生成物との分離・回収、再使用が容易となることを見出した。さらに、Heck反応においても本触媒が高活性を示し、配位不飽和な活性種の立体的要因による安定化が行なわれていることを見出した。
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