ヒトデオキシリボヌクレアーゼIは劣性遺伝性嚢胞性線維症に伴う肺閉塞症状の治療薬など臨床・予防医学に応用できることなどが相次いで解明されており、量産技術の開発が期待されている。汚染の恐れのない製品を容易かつ低価格で生産可能であることから、遺伝子・組換え技術が手段として有望である。だが、生産されたヌクレアーゼ自身が細胞内の染色体を攻撃し、細抱死を起動させるだけの毒性を発するため、毒性回避技術の考案が要件となる。そこで本研究では大腸菌ヌクレアーゼEcoRIをモデルタンパク質とし、酵母Pichia pastorisを宿主としたヌクレアーゼ生産系の開発を行った。まず、遺伝子操作によって制限酵素EcoRIをコードするEcoRI r+遺伝子を有する発現ブラスミドを新規に作成し、ヒスチジン要求株に導入した。次に、ベクター誘導物質であるメタノールに着目し、その使用法について吟味した。その結果、初期メタノール濃度が低いと供給炭素量が不十分である一方で、高すぎても代謝経路内で毒性物質の蓄積が起こり、菌体が悪影響を受けるため、0.12mol/Lが初期メタノール濃度として適切であることが分かった。また、代表的なモデル式であるMonodの式をはじめ、増殖収率、基質消費速度の面からの解析を行った。さらに、メタノールを用いて組換えタンパク質の酵母細抱外分泌生産を行った。SDS-PAGEによる解析の結果、EcoRIタンパク質とほぼ同分子量のタンパク質が分泌していることを確認した。しかし、全て増殖期において活性をもつタンパク質は得られなかった。その原因として、塩基配列のエラーや宿主大腸菌の複製エラー、過剰な糖修飾に起因した組換えタンパク質が構成する三次元構造の変化が考えられる。今後、原因の早期解明および大量生産系の早期確立が求められる。
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