研究概要 |
昆虫細胞培養による機能性タンパク質の高生産プロセスを構築するための工学的な基礎を確立することを目的として,本年度は,目的のタンパク質をコードする遺伝子を組換えたバキュロウイルスを培養昆虫細胞に感染させて組換えタンパク質を大量に発現させる昆虫細胞-バキュロウイルス系に関して,本系による情報伝達関連タンパク質(プロテインキナーゼC-δ(PKC-δ))の生産特性の解析を行った. まず,PKC-δのC末端側17アミノ酸残基のペプチドを抗原とする坑ペプチド抗体を用いる酵素免疫測定法(ELISA)により細胞内および細胞外におけるPKC-δの発現量の経時変化を測定し,タンパク質リン酸化活性測定法による結果と比較検討した.ELISAにより測定した細胞内・外におけるPKC-δの発現量の経時変化は,タンパク質リン酸化活性測定法による測定結果とほぼ一致したことから,坑ペプチド抗体を用いるELISAにより活性あるPKC-δを簡便に定量できることがわかった.また,培養後期には,細胞内におけるPKC-δの発現量が減少し,細胞外(培地中)におけるPKC-δの濃度が増大した.使用した組換えバキュロウイルスにはPKC-δ遺伝子の上流に分泌のためのシグナルペプチドを挿入していないことから,細胞内で発現したPKC-δがウイルス感染にともなう細胞の死滅により次第に細胞外に漏出するためと考えられた.さらに,無血清培地を用いた培養では,培養後期において細胞外のPKC-δの濃度が大きく低下した.しかしながら,セリン/システインプロテアーゼのインヒビターであるleupeptinを無血清培地に添加して培養を行ったところ,培養後期におけるPKC-δの濃度の減少を抑制することが可能であった.
|