研究概要 |
昆虫細胞-バキュロウイルス系は,生物学的活性や高次構造が本来のものと同様の組換えタンパク質を大量に発現可能な系として近年注目を集めている.昆虫細胞の培養では,動物細胞の場合と同様に,通常,牛胎児血清(FBS)を10%程度添加した培地が用いられる.しかしながら,血清の使用により,目的タンパク質の分離精製が困難となるなどの問題が生じるため,工業的規模での有用タンパク質の生産には無血清培地の使用が望まれる.昆虫細胞培養による機能性タンパク質の高効率生産プロセスを構築するための基礎を確立することを目的として,本年度は,血清を添加していない基礎培地における組換えタンパク質生産について検討した. まず,基礎培地としてTNM-FHを用いてFBSの有無が昆虫細胞Sf9の増殖に及ぼす影響を調べた.FBSを10%添加したTNM-FHと比べて,FBSを添加していない場合,昆虫細胞Sf9の増殖速度は小さく,到達細胞密度も低かった.また,動物細胞の増殖促進効果を有するホスファチジン酸(PA)を添加しても,細胞増殖には変化が見られなかった. ところが,β-galactosidaseを発現する組換え核多角体病ウイルスをSf9に感染させ組換えタンパク質生産に及ぼす影響を検討したところ,FBSを添加していないTNM-FHの場合でも,FBSを10%添加した場合と比較して約2/3のβ-galactosidaseが生産されることがわかった。また,PAを10mg/lの濃度で添加する,あるいは組換えウイルスの感染多重度(MOI)を高くすることにより,いずれもβ-galactosidaseの生産がさらに促進された.このように,血清を添加していない基礎培地を用いた場合でも,大量の組換えタンパク質を生産できたことから,経済性などの点で優れたプロセスを構築できる可能性が示唆された.
|