プロテアーゼはタンパク質を加水分解する酵素であるが、有機溶媒存在下では、ペプチドやエステルの合成反応を触媒することができる。しかしながら、一般に酵素は有機溶媒に不溶であり、しかも有機溶媒存在下では容易に変性、失活する。申請者らは、先に、有機溶媒に安定なプロテアーゼを産生する有機溶媒耐性微生物Pseudomonas aeruginosa PST-01株の取得に成功している。本研究では、P. aeruginosa PST-01株が産生する有機溶媒に安定なプロテアーゼの有機溶媒安定性を分子生物学的手法により解明することを目的とする。 PST-01プロテアーゼとサーモライシンは共に活性中心に亜鉛イオンを有するメタルプロテアーゼであり、全体的な立体構造は非常によく似ている。有機溶媒に安定なPST-01プロテアーゼの分子内には2つのジスルフィド結合が存在するが、熱に安定なサーモライシンの分子内にはジスルフィド結合がない。そこで、酵素の有機溶媒安定性の一要因は分子内のジスルフィド結合の存在にあると考え、ジスルフィド結合が欠損した変異PST-01プロテアーゼを作製した。PST-01プロテアーゼの分子内に存在する2つのジスルフィド結合の内、270番目と297番目のシステイン間のジスルフィド結合が欠損するように作製した変異酵素遺伝子を有する大腸菌はプロテアーゼ活性を持たないことから、270番目と297番目のシステイン間のジスルフィド結合はPST-01プロテアーゼの活性発現に必須であることがわかった。これに対して、30番目と58番目のシステイン間のジスルフィド結合が欠損した変異酵素は、有機溶媒安定性が顕著に低下しており、30番目と58番目のシステイン間のジスルフィド結合はPST-01プロテアーゼの有機溶媒安定性に重要な役割を果たしていることがわかった。
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