本研究は、直接不定胚誘導法をクローン植物の大量繁殖技術として確立することを、目的としている。本法では、植物ホルモンを用いた誘導培養により植物切片組織内の細胞に新たな細胞間極性を誘導し、その後、植物ホルモンを含まない培地にて不定胚を発展させる。ニンジン無菌種子由来の芽生え下胚軸を検討試料として用いている。昨年度の検討において、外形変化の連続観察により、不定胚が下胚軸切片両端部より生じるカルス部からではなく胚軸周囲全体より発生することを確認するとともに、培養条件の検討により、発展培養段階において光照射が必要であること、カルシウム強化が不定胚形成を促進することなどが示された。本年度は、これらの成果を踏まえ、不定胚発生のために要する組織の特性について更に検討を進めるとともに、バイオリアクターを利用した大量・自動処理のための試験を行った。 1 不定胚発生過程にある組織について、凍結切片・透明化試料を作成し内部観察を行った。不定胚発生に先立ち、厚い細胞壁を有し核酸合成が盛んである厚角組織の発展がみられること、この厚角組織を基部として不定胚が発生することを確認した。使用材料依存性について、芽生えの下胚軸長さと不定胚発生頻度との相関を検討し成長度が低く短い下胚軸切片より多くの不定胚が発生すること、より長い下胚軸を用いた場合には、不定胚の発生およぴ厚角組織の形成が抑制されることを明らかにした。 2 液体培養における操作条件の不定胚発生への影響について試験管・培養プレートを用いた基礎検討を行い、培養液の流動がある場合には、不定胚の形成・成長が促進される一方、不定根の伸展が顕著であることを確認した。 3 エアリフト型バイオリアクターを用いた培養試験を行い、"2"に示した結果を確認するとともに、1本の芽生えより計6週間の培養により平均1700本の不定胚を誘導することに成功した。
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