固体の表面・界面における電子やホールの挙動は半導体デバイス、触媒反応、電気化学反応においてきわめて重要なプロセスであるが、それらの挙動はフェムトやピコ秒といった非常に速い相互作用であることが多い。そのため、高時間分解能でダイナミクスを計測する手法が求められてきた。過渡反射格子(TRG)法はin-situ.フェムト秒時間分解能でキャリヤダイナミクスを計測できるという特徴をもつ超高速光熱変換分光法の一つである。この方法により、光励起キャリヤの挙動を観測し、固体表面・固液界面におけるさまざまなキャリヤの相互作用が明らかにされてきた。しかし、従来のTRG法は単一波長で過渡応答を測定するために、いくつかの過程が同時におこる場合にはそれらを区別することが難しかった。そこで、本研究では観測光に白色フェムト秒パルス光を用いることで、各エネルギー準位でのキャリヤダイナミクスを選択的に観測することに成功した。試料としては金属の代表として金、半導体の代表としてシリコンを測定した。金では可視光領域に存在する2つの光学遷移に関連した励起準位でのキャリヤの緩和過程を直接観測することに成功した。また、シリコンにおいてはイオン注入などによって生成した欠陥準位にキャリヤがトラップされる様子、また再結合していく様子を直接とらえた。また、本手法の応用例として金属-吸着種間の電子的相互作用が本質的に重要な表面増強ラマン(SERS)効果に着目し、SERS効果を誘起する際のフェムト秒から数10ピコ秒時間領域での電子的相互作用を明らかにした。SERSの素過程を観測したことは世界的にもはじめてであり、また、その増強機構に関しても新しい知見を与えた。
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