研究概要 |
高次Douglas-Kroll法の開発 大規模な分子系に対して相対論的効果を考慮するためには,4成分のDirac-Fock方程式を明白に解くかわりに,ある相対論的近似を行うことが効率的である.Douglas-Kroll(DK)法は相対論的Hamilton演算子から生じる陽電子状態解と電子状態解の結合を小さくしていく相対論的近似理論のひとつである.この方法の本質は,適当なユニタリー変換を外場存在中のDirac Hamilton演算子と波動関数に繰り返し施すことによって,Dirac波動関数のlarge成分とsmall成分を分離することにある.DouglasとKrollによって与えられたユニタリー変換演算子を1度施すことにより2次DK法と呼ばれる方法が得られ,後にHess等によって実際の重原子分子系に適用されるようになった.その結果,2次DK法は相対論的に満足のいく結果を与える方法であることが示されている.しかしながら,2次DK法では高次の相対論的効果によるエネルギーの安定化を十分には考慮することができない.そこで,我々は高次の相対論的効果を考慮するために,更にユニタリー変換を繰り返し施すことによって得られる高次DK法を開発した.これまでの幾つかの応用結果から,3次DK法は2次DK法に比べ高次のエネルギーの安定化を考慮することができて,優れたパフォーマンスを示すことが示されている.この方法は変分的に安定で,高次の相対論的効果を取り込むことができる.また,容易に既存の非相対論的電子状態プログラムに組み込むことができ,どんな電子状態理論に対しても相対論的効果を考慮することが可能である.この方法で相対論的効果を考慮するためにかかる時間は,対応する非相対論的計算とほとんどかわらない.そして,DK法を高度な電子相関理論と組み合わせることによって,基底状態に限らず,重い原子を含む系の励起状態の計算に対しても,効率的で力強い方法となる.
|