昨年度の実験・検討において、プロトン導電体による水素同位体電池が生じる起電力がセンサに都合良く適用できる形をした理論式に従うことが分かった。酸化物イオン導電体セルで行った予備実験の結果も踏まえ、本年度は以下の検討を行った。 (1)プロトン導電体を用いた水素同位体センサ:電解質としてプロトン導電体である10mol%のインジウムをドープしたカルシウムジルコネートを用いた電気化学セルを構成し、一方の電極室に標準ガスとして純水素を、他方の電極室に軽水素と重水素の混合ガスおよびその50%、25%希釈ガス(希釈剤はアルゴンガス)を導入し、700℃における起電力測定を行った。得られた起電力は混合ガス中の水素同位体比および水素同位体総濃度(分圧)の関数の和として得られ、検討したすべての濃度範囲において上述の理論式に一致した。したがって、本セルは、水素同位体総濃度が分かっている場合において被検ガス中の水素同位体比を検知するセンサとして働く事が明らかとなった。 (2)酸化物イオン導電体を併用した水素同位体センサ:上記の電気化学セルにおいて電解質として酸化物イオン導電体であるイットリア安定化ジルコニアを用いて(1)と同様の条件で起電力を測定したところ、その起電力はほぼ水素同位体総濃度のみの関数として得られた。酸化物イオン導電体セルは平衡論的には水素同位対比に対してもプロトン導電体セルとは逆の極性で起電力を生じると考えられたが、実際にはこれに鈍感であった。これは、混合ガス(被検ガス)中の酸素分圧が、これに含まれる水蒸気により速度論的に支配されているためと考えられる。このようにして得た酸化物イオン導電体セルからの起電力は平衡値ではないものの、これを(1)のプロトン導電体セルの起電力から減じた結果は水素同位体比のみの関数となり、両セルの併用により、水素同位体を含むガス中の水素同位体比と総濃度を同時に決定できる事が明らかとなった。
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