本研究では、金属単結晶表面に形成させた有機単分子膜表面を反応場とした化学反応を走査プローブ顕微鏡によりその場観察し、界面における化学反応メカニズムや生成物の構造を明らかにすることを目的とし。以下の成果を得た。 二成分系チオール自己組織化単分子膜(SAM)の界面における混合状態の評価 反応場となるチオールSAMの表面構造をボルタンメトリー測定および走査トンネル顕微鏡(STM)により調べた。3-mercapto-1-propanolと1-tetradecanethiolの二成分チオールSAMを、Au(111)面上に共吸着で形成させると、ナノメートルスケールのドメインに相分離した。その相分離構造は、共吸着に用いる溶液中のチオールの濃度に強く依存し、希薄な溶液から膜を形成させるほど大きなドメインが得られた。また、1μMのチオール溶液から膜を形成させた場合は、Au(111)面の対称性を反映した異方的なドメイン成長が起こっていることが明らかとなった。 単分子膜を形成するチオール分子と溶液中分子の化学反応の追跡 末端官能基として水酸基を有するチオール分子で形成させたチオールSAMに、n-butyl isocyanateを反応させ、X線光電子分光法(XPS)および吸着したチオールの還元的脱離のボルタンメトリーにて、反応の進行の程度を調べた。窒素由来のXPSシグナルは、反応時間と共に指数関数的に増加し、n-butyl isocyanateが反応して表面に付加することが確認された。ボルタンメトリーでは、チオールの還元的脱離に起因するピークの電位が、反応時間と共にネガティブ方向にシフトした。ピーク電位のシフトは、XPSシグナルの反応時間依存依存した変化に良く対応し、ボルタンメトリーで、反応の進行の程度をモニターできることが明らかになった。また、n-butyl isocyanateの濃度により、ピークのシフト量が異なることが分かった。 走査プローブ顕微鏡による界面におけるの化学反応の直接観察 原子間力顕微鏡およびSTMにより、反応過程をin situで調べた結果、反応後では、反応前には見られなかったislandsが観察された。長時間反応させた場合でも、平滑な領域が存在し、反応が表面で均一に起こっていないことが示唆された。
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