タングステン窒素錯体とルテニウム分子状水素錯体とを用いた非常に温和な条件下での化学量論的なアンモニア合成反応において、ルテニウム錯体に配位した配位水素分子の酸性度と、生成するアンモニア収率との間に相関関係があることを明らかにした。即ち、配位水素分子の酸性度がpKa値で10を越えると、アンモニア収率が大きく低下する傾向が見られた。また、先の化学量論的なアンモニア合成反応をNMRにより追跡し、タングステンに配位した配位窒素の末端がプロトン化されたヒドラジド錯体が、反応中間体として生成していることを明らかにした。 また、架橋硫黄-モリブデン錯体上で水素分子がヘテロリティックに活性化されることに着目し、この系をタングステン窒素錯体との反応に適用することで、配位窒素分子と水素分子とからの常温常圧の条件下でのアンモニア合成に成功した。この結果は、窒素固定酵素ニトロゲナーゼや水素変換酵素ヒドロゲナーゼなどの生体内酵素の機能との関わりからも興味が持たれる。 一方、プロキラルなシリルエノールエーテルの水素を用いた不斉プロトン化反応を行うために、光学活性二座ホスフィンを有する新規なルテニウム分子状水素錯体の合成を行い、その詳細な構造を単結晶X線構造解析装置を用いて明らかにした。さらに、水素分子のヘテロリティック開裂反応を利用したプロキラルなシリルエノールエーテルの水素化分解反応による光学活性なケトンを得る触媒的な不斉合成反応への応用を現在検討している。
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