本研究では今まであまり報告されていないD-カンファースルホン酸誘導体塩等の不斉有機塩を合成し、電解酸化に用いて不斉収率向上を図ると共に、電解還元反応用の不斉第四級アンモニウム塩もまた合成し、従来法と比較しながらその不斉収率の向上を目指すこと、さらに有機塩、特に第四級アンモニウム塩の溶融中での新規有機化学反応の開発を試みることを目的として検討を行った。本年度は特に不斉有機塩の合成とそれを用いた電解酸化反応を検討した結果、主として次の知見が得られた。 1)市販の塩化D-カンファースルホニルから合成したD-カンファースルホン酸エチルを水素化ホウ素ナトリウムで還元するとそのカルボニル基を還元でき、対応するアルコール(d.e.90%)が得られ、これを精製した後に第四級アンモニウム塩とすることで新規の不斉D-カンファースルホン酸誘導体塩を合成することができた。 2)1)により合成したD-カンファースルホン酸誘導体塩の電解酸化反応における効果を調べた結果、ヒドロキシル基を有することに由来すると考えられるアセトニトリル、テトラヒドロフラン等への溶解性の低下のため、低温での反応継続が困難となり、D-カンファースルホン酸テトラエチルアンモニウムと比較して不斉収率は大きく低下した。 3)D-カンファースルホン酸テトラエチルアンモニウムを支持電解質とし、溶媒にアセトニトリル-テトラヒドロフラン-酢酸(27:9:1)を用いてテトラロンエノールエステルの電解酸化によるカルボニル基のa位炭素原子への酸素官能基導入反応を行ったところ、本研究開始前の不斉収率をさらに上回り、-78度で収率8%と低いものの電解酸化法としては最も高い不斉収率36%e.e.で不斉誘導が行えることを見出した。この反応では溶媒の構成と温度が最も重要な因子であり、2)の結果と共に電解質の溶解性も重要であることが明らかとなった。
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