本研究では、有機電極反応における支持電解質の果たす役割とその重要性に着目し、今まであまり報告されていないD-カンファースルホン酸誘導体塩等の光学活性支持電解質を分子設計、合成すると共に、それを用いた電気化学的酸化還元反応により、エナンチオ選択的な不斉合成反応を開発すること、さらに有機塩、特に第四級アンモニウム塩の溶融中での新規有機化学反応の開発を試みることを目的として検討を行った。本年度は合成した不斉有機塩を用いて不斉収率の向上を目指して電解酸化反応を検討すると共に、溶融塩として100℃以下の融点を持つ第四級アンモニウム塩である塩化テトラデシルベンジルジメチルアンモニウムを使用し、その中でのニトロ化合物の還元反応を行い、主として次の知見が得られた。 1)D-カンファースルホン酸テトラエチルアンモニウムを支持電解質とし、溶媒にアセトニトリル-テトラヒドロフラン-酢酸(27:9:1)を用いて合成した置換テトラロンエノ-ルエステルの電解酸化によるカルボニル基のα位炭素原子への酸素官能基導入反応を行ったところ、7-メトキシテトラロンエノ-ルエステルの電解酸化において既に見いだしている無置換テトラロンエノ-ルエステルの不斉収率を上回る44%e.e.で不斉誘導が進行することを見いだした。しかしながら、6-メトキシテトラロンエノ-ルエステルを基質とした場合にはほとんど不斉誘導は起こらず、この差異はメトキシ基の共鳴効果によるものと考えている。 2)ニトロベンゼンを約80℃の塩化テトラデシルベンジルジメチルアンモニウム溶融塩中において水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム還元を行ったところ、アゾベンゼンとアゾキシベンゼンの混合物が約70%の収率で得られることを見いだした。この結果は既知のアルコール系溶媒やDMSO中での結果とは異なり、最近報告されている溶融塩系での反応と同様に興味深い。
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