高歪みエネルギーを有する三員環エーテル化合物(オキシラン)の環開裂をともなう結合形成反応は、有機合成上重要な鍵反応として広く用いられていることはいうまでもない。一方、同様に高い反応性を有すると考えられる4員環エーテル化合物(オキセタン)の合成的利用は、限られたものに留まっているのが現状である。その大きな理由としては、オキセタン誘導体の位置及び立体選択性の制御が困難でありその合成戦略が未だ確立されていないことが挙げられる。もし、その問題点を根本的に解決する方法論が確立出来れば、オキセタンの環開裂をともなう結合形成反応が有機合成上非常に有力なものとなることは間違いない。また、オキセタン骨格はその特異な構造に基づく生理活性(殺菌性および神経細胞増殖作用)を有することも知られており、その選択的なオキセタン骨格合成法の確立は挑戦に値する研究テーマである。研究代表者は、その様な観点に基づき、シリルエノールエーテル類とカルボニル化合物との光[2+2]環化付加反応を設計し、生じるオキセタンの位置及び立体選択性に関する調査を行ってきた。その結果、平成12年度の研究において、(1)それら選択性に及ぼす顕著なカルコゲン原子効果を見出すと共に、その発現機構を解明した。また(2)2重結合が2個以上存在するシリルエノールエーテルを基質に用いた場合に生じる化学(レギオ)選択性に関する調査も行い、その選択性と発現機構を明らかにすることにも成功した。さらには(3)上記の方法論を用いて合成したオキセタン誘導体の環開裂を伴う結合形成反応にも着手し、興味深い成果も上げた。
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