まず、ビスオキサゾリニルフェニル(Phebox)を不斉配位子とするキラルロジウム錯体を用いた、アリルスズによるアルデヒドの不斉アリル化反応における反応機構について検討した。通常、アリルスズを用いたアリル化反応は、ルイス酸触媒により反応が促進される機構と、まずアリルスズがルイス酸と反応して新たなアリル金属種が生成した後、アリル化が進行するトランスメタル化機構の2つの経路が考えられる。詳細なNMR実験の結果、本触媒系はルイス酸促進機構で反応が進行していることを明らかにした。すなわち、錯体とアリルスズは全く反応せず、アルデヒドとのみ選択的に錯形成した後、まずアリル化反応が進行してスズアルコキシドが生成する。その後、加水分解することで最終生成物であるホモアリルアルコールと触媒であるロジウム錯体が回収された。次に置換基を有するアリルスズ化合物を用いて、反応のジアステレオ選択性についても検討し、本反応におけるエナンチオ選択性、ならびに遷移状態について詳細に検討した。その結果、通常のルイス酸促進反応とは逆のアンチージアステレオ選択性を示すことを見出した。X線結晶構造解析ならびに分子軌道計算から、このアンチージアステレオ選択性ならびにsi-エナンチオ面選択性は、このロジウム錯体の持つ特異な6配位型オクタヘドラル構造に由来し、さらに通常とは逆のアンチペリプラナー遷移状態を経て反応が進行することを明らかにした。 また、このロジウム錯体は、Danishefskyジエンを用いるヘテロDiels-Alder反応においても優れた不斉ルイス酸触媒となることを見出した。すなわち、わずか2mol%の触媒量で定量的にグリオキシラートとの環化生成物を最高84%eeで与えた。この際、本反応系が向山-アルドール機構ではなく、[4+2]型Diels-Alder機構でendo-遷移状態を経て進行していることを明らかにした。 今後は、上記反応における不斉誘起能の向上、ならびに不斉ルイス酸触媒としてのさらなる可能性について検討を行なっていく予定である。
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