炭素炭素結合形成反応は、有機合成の最も重要な反応である。この反応を立体選択的に行うことが精密な分子設計の第一歩で、基盤となる点である。なかでも3級アルコールを立体選択的に合成する手法の開発はこれまでにほとんど報告例が無く、困難な課題の一つであった。二塩化スズを用い、アリルスタンナンとの金属交換により発生する活性二価アリルスズ種を機軸とした反応により、多種のケトンに対する反応を検討し、その立体選択性の制御を行った。昨年までの検討結果から、単純ケトンに対する反応には、高い選択性が認められたことから、官能基化されたケトンに対する検討を中心に行った。その結果、アルコキシケトンに対し、極めた高い(ほぼ単一)選択率でアリル化が進行し、官能基化された3級アルコールが高収率で得られた。生成物の立体化学は、X線結晶構造解析に基づいて決定することができ、この結果から、反応機構がほぼ確立できた。キレーション効果に基づくリジッドな遷移状態が高い選択性の原因となっている。 また、新たな求核種として、集積二重結合を有するアレニルスズを用いたところ、立体選択的に付加反応が進行し、アルキニルを有する3級アルコールが高収率で生成した。アリルスズを用いる場合に比べて、やや不利な遷移状態のリジッドさを有すると考えられるが、高選択的であったことは、注目に値する。 アリルスズの類縁体とみなされるスタニルアミドを用いた場合も、効率良く反応が進行した。この場合、金属交換の効率がやや劣るものの、反応時間を長くし反応温度を上げることで、高収率高選択的な反応系を確立することができた。アミドのアミン置換基に不斉源をもたせると、生成物に不斉が転写されジアステレオマーの一方が優先的に生成した。これは、ケトンに対する新しい不斉アルドール手法として位置づけられ、今後の発展の端緒となる成果であると考えている。
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