本研究では、共役ポリマーと金属-金属結合鎖を直接連続結合により連結させた新しいタイプの鎖状化合物の創製を目的としている。具体的には、単純なsp^2炭素鎖である共役ポリエンとパラジウム鎖のハイブリッド分子の一般的合成法の確立と構造的および電子的性質の解明を目標とした。 本年度の結果として、まず第一に従来法よりも優れた合成方法を見出した。従来法ではパラジウム単核錯体を原料としていたが、新規なパラジウム二核錯体を代替に用いることにより高い効率で目的化合物を合成できた。第二に種々の長さの鎖状分子を系統的に合成することに成功した。合成した各錯体のX線構造解析、各種スペクトル解析をおこなうことにより、構造や電子状態に対する基礎的知見が得られた。まず構造的性質においては、鎖長が長くなるにつれて鎖内部の結合パラメータで最も大きく変動しているのはパラジウム-パラジウム間距離であり、平均パラジウム間距離はパラジウム核数の逆数に依存して特定の値に収束するという一般法則を見出した。また、共役ポリエン部分の結合交替程度がフリーの状態に比べて著しく減少していることもわかった。さらに、^<13>C NMRスペクトルによる系統的解析により、ポリエン上の電子密度は鎖長が長くなるにつれポリエン二重結合数の逆数に依存しながら高まってゆくことも見出した。 これらの結果により、新しい分子カテゴリーに入る当該鎖状化合物の基本的性質を理解する上で重要な知見が得られた。
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