前年度で得られた知見を基盤として、光学活性マンガンニトリド錯体を用いる効率的なアルケンの不斉アジリジン化およびオキサゾリン化について検討した。 アジリジン化反応における最適反応条件を基に、ニトリド錯体の活性化剤の種類を検討した。まず、アジリジン化に最適であった活性化剤であるスルホン酸無水物以外に、より入手容易なスルホン酸クロリドを用いたところ、同様の化学収率、光学収率で対応するアジリジンを得ることができた。この場合、芳香族が置換したスルホン酸クロリドだけでなく、脂肪族のスルホン酸クロリドでも効率良くアジリジン化が進行することが判明した。そこで、塩化2-トリメチルシリルエタンスルホニル(SESCl)をニトリド錯体の活性化剤として適用したところ、N-SESアジリジンを得ることができた。このアジリジンの窒素上のSES基はシリカートを用いて容易に除去することができ、合成化学的に非常に有用なN-Hアジリジンヘと変換することに成功した。 次に、活性化剤として、カルボン酸クロリドを適用したところ、銀塩存在下、アルケンとニトリド錯体から一段階で、光学活性なオキサゾリンが合成できることを明らかにした。本反応は、光学活性なニトリド錯体をNlユニット源とした不斉オキサゾリン合成の初めての例である。本サレン型ニトリド錯体は、スチレンのトランス位に置換基を有するアルケン類の不斉オキサゾリン化に有効であり、メチル基が置換したものでは86%ee、n-プロピル基で85%ee、イソプロピル基で90%ee、シクロヘキシル基で92%eeを達成することに成功した。
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