6つのカルボキシル基を有するNBocオリゴアニリン11量体は、Hartwig、Buchwaldらにより報告されている、パラジウム触媒を用いたカップリング反応により合成した。合成したオリゴアニリン11量体の^1H NMRスペクトルは水素結合を切断するようなCD_3CNやDMSO-d6といった極性溶媒中ではシャープに観測されるものの、CDCl_3中ではブロードであった。このスペクトルはオリゴアニリンの濃度に依存しないことから、分子内のカルボキシル基に働く水素結合によるものと考えられる。しかしながら、このオリゴアニリン11量体のCDCl_3溶液にトリエチレンジアミンを加えていくと^1H NMRスペクトルは劇的に変化した。芳香族領域は3等量付近までトリエチレンジアミンの添加に伴ってシャープに変化し、特に最も低磁場に観測されるオリゴアニリンの末端部のベンゼン環の水素のシグナルは、3等量添加したときにダブレットとして1本観測された。さらに添加を続けていくと3等量以降は次第にスペクトルはブロードに変化し、15等量と過剰にトリエチレンジアミンを添加すると、スペクトルは再びシャープに観測されるものの、このとき得られるスペクトルは3等量のトリエチレンジアミンを加えた時に得られたスペクトルとは異なり、極性溶媒中で測定したものに類似していた。さらに、トリエチレンジアミンのシグナルは、3等量付近まで低磁場シフトを続け、3等量を境に高磁場ヘシフトする。恐らく3等量添加までに観測される低磁場シフトは、オリゴアニリン11量体のらせん構造形成に伴い、トリエチレンジアミンがオリゴアニリンのベンゼン環から反遮蔽を受けたことによるものと考えられる。また、N-Bocオリゴアニリン11量体に3等量のトリエチレンジアミンを加えて得られるコンプレクスの温度可変NMR測定から、らせん構造の崩壊及びらせん構造の形成の動的過程を観測することにも成功した。
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