研究概要 |
本研究では,生体内の特異的な反応として知られている抗原抗体反応をゲル内の可逆的架橋点として利用することにより,特定の抗原に応答して膨潤率を変化させる抗原応答性ゲルを調製し,その構造と抗原応答性機能との関係について検討した。まず,始めにゲル調製条件について調べた結果,抗原抗体結合をゲルのネットワークに導入する際の抗原および抗体の化学修飾条件が,得られるゲルの抗原応答性に大きく影響することが明らかになった。また,ゲル構造として相互侵入網目構造(IPN)の導入によって,ゲルの抗原応答性に可逆性を付与できることがわかった。さらに,ゲル弾性率測定装置を用いてゲルの力学物性を測定することによってその架橋密度を求め,ゲルの架橋構造と抗原応答性との関係について検討した。その結果,遊離の抗原が存在する時には,抗原応答性ゲルの架橋密度は低下することが明らかとなった。さらに,IPN構造を導入したゲルは,遊離抗原の存在の有無によって可逆的に架橋密度を変化させることがわかった。したがって,抗原抗体結合を導入したゲルの抗原応答性膨潤変化は,遊離抗原の存在下でゲル内の化学修飾した抗原抗体結合が解離し,架橋密度が減少するためであることが明らかとなった。一方,IPN構造を導入したゲルでは,遊離抗原が存在しなくなると再びゲルネットワークに結合した抗原と抗体が結合できるため可逆的に収縮できると考えられる。現在,このような抗原に応答したゲル構造変化を,設備備品費として購入した位相差顕微鏡を用いて観察中であり,ゲルの抗原応答性機構が詳細に解明されつつある。さらに,これまでに得られた知見を基にして,ゲル構造設計によってより感度の高い抗原応答性ゲルの調製も試みている。
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