研究概要 |
分別精製Na型ジェランガム試料は、市販のK型ジェランガム試料から0.001N NaOH水溶液/イソプロピルアルコール混合溶媒中40℃以上で10区分に分子量分別され、イオン交換とNaOH中和により対イオン種が制御された。第2区分(Fr-B)の粘度平均分子量は30,400であった。 希薄溶液中のジェランガム鎖の形態は、固有粘度測定と放射光小角X線散乱実験(SR-SAXS)で調べた。70℃から25℃に液温を冷却すると、37.5℃付近でヘリックスーコイル転移が起こり固有粘度が急激に増大した。一方、25℃から70℃へ昇温すると、37.5℃以上で固有粘度は徐々に減少し、冷却過程と昇温過程に顕著な熱履歴が観測された。SR-SAXSによりジェランガム鎖の断面の回転半径を見積もると、25℃では2重らせん鎖、70℃では1本鎖に期待される計算値に近かった。粘度の結果は、冠球円筒みみず鎖モデルによる山川-吉崎粘度理論で解析され、ジェランガム鎖の分子鎖形態を考察した。その結果、系がヘリックスーコイル転移温度以下に冷却されると、ジェランガム鎖は2分子間でランダムに会合し、両末端が不揃いの2重らせんが形成される事が示唆された。一本の会合鎖中の平均ヘリックス分率は80%程度であった。ヘリックス分率には分布が有り、加熱によりヘリックス分率の短い会合鎖より融解が起こり、それが熱履歴に反映されたと考えている。 高分子濃度を増大すると、4.5%以上で複屈折性を示すゲルが形成された。SR-SAXSプロファイルにはラメラ状の秩序構造形成を示唆する強いピークが現れた。パラクリスタル解析により、以前行なわれた75%Na置換ジェランガムよりも、秩序性の高いゲルが形成されている事が分かった。これに対し、同濃度範囲に於ける市販のK型ジェランガム、分子量分別されたがイオン交換されていない低分子量・高分子量ジェランガムのゲルでは、秩序構造が形成されなかった。秩序構造形成には様々な因子が関与しており、対イオンの種類が特に重要である事が分かった。 また、中性子を利用したコントラスト変調実験により、ゲルの架橋領域の密度を定量的に見積もった。架橋領域の高分子濃度は平均濃度の約2倍に増大している事が判明し、ゲル構造モデルの精密化を行なった。これらの結果は高分子学会に発表予定であり、現在論文に投稿準備中である。
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