ポリオレフィンやフッ素系樹脂等の高分子では、重合過程での結晶化により分子鎖絡み合いが少なく固相状態での塑性変形性に富むパウダー構造が発現する。特にスラリー重合で得られるパウダーは、溶液結晶化試料と同程度の高結晶性を有している。この特異な重合パウダーの構造は、一度溶融させるとほぼ完全に消失し、通常の球晶構造となってしまう。そこで、溶融状態を経ないで重合パウダーを任意の形状に圧縮成形し、さらにこのような成形フィルムやシートに対して、配向処理(圧延や押出し成形+引張り延伸)を行う試みが超高分子量ポリエチレン(UHMW-PE)、ポリテトラフルオロエチレンで試みられている。 各重合温度で合成したUHMW-PEパウダーを融点以下で圧縮成形し、得られたフィルムを延伸した際に得られる最大延伸比を比較したところ、低温重合試料では、最大延伸比は80倍程度となり、延伸物の引張り弾性率は110GPaと市販のポリエチレン・ゲルファイバーに匹敵する物性を有していた。しかしながら、重合温度が高いパウダーほど、フィルムの塑性変形性が低下し、90℃重合パウダーでは最大延伸比は55倍程度となっていた。また、これに対応して、延伸物の引張り物性も顕著に低下していた。これらの理由として、以下の2つの効果が挙げられる。一つは、重合温度によって異なるパウダー構造を反映して、パウダー・パーティクル間の密着性が繊維状組織の存在によって著しく低下し、パウダー界面での剥離が延伸過程で進行するためであり、二つ目は高温重合試料では多くの分子鎖絡み合いがパウダーに内包されるためである。実際には、これら2つの効果があいまって、パウダー成形物の塑性変形性が決定されていると考えられる。
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